Opinion

■ 木村建設の倒産について

◆はじめに − わたしの立場
この[耐震強度偽造問題]に関して、少なくとも木村建設を擁護する意思はありません。
しかし、木村建設の<不渡り〜倒産>に関しては大いに問題があると思うので、ここに問題提起をしておきたいのです。

◆発表されている経緯
報道によれば、
「木村建設(株)(資本金9997万5000円、熊本県八代市敷川内町970-1、代表木村盛好氏、従業員186人)は、11月21日付の決済が困難となり、11月22日付で事業を停止した。
同社は民間建築工事の受注が主体で、福岡市、広島市に支店を設置するほか、93年12月には東京支店を開設して、全国規模で事業展開を行っていた。ローコスト・短工期の建設工法を強みとして、ホテル、マンション、アパートなどの大型物件の建築工事を中心に急成長し、2005年6月期には過去最高の約127億7400万円の年売上高を計上していた。
しかし、このほど発覚した姉歯建築設計事務所(千葉県市川市)による耐震構造計算書の偽造問題で、複数の竣工済みのマンションやホテルについて当社が施工者だったことが明らかとなり、建設中の物件は工事ストップに追い込まれるなど対外信用は著しく失墜。
11月21日に取引銀行の熊本ファミリー銀行が債権保全目的で、当座預金と債務を相殺したことにより、決済難に陥り、今後の資金繰りのメドも立たないことから、今回の事態となった。」
とのことです。

◆木村社長の無念
国会の証人喚問で、木村社長は以下のように語っていました。(文は要旨)
「月曜日(11/21)の[9億円]の手形決済に対して、当座預金には[13億円]あった」
「しかし、土日(11/19,20)に(熊本ファミリー銀行の)支店長と話し合って支援が受けられないということになり月曜日の手形決済ができなくなった」
「金融機関とは、30年も付き合っていても最後はこんなかと悔しい思いだった」

◆当座に残高がありながらなぜ不渡りがでたのか
13億円の残高がありながら9億円の手形が決済できないというのは、全く考えに難いことです。これが実現するためには、二つのことが考えられます。
ひとつは[銀行が当座を押さえた(当座の資金を引き上げた)]で、もうひとつは[木村建設が断念した(当座の資金を供出した)]です。
上の経緯には「熊本ファミリー銀行が債権保全目的で、当座預金と債務を相殺した」とありますので、熊本ファミリー銀行が相殺権を行使したように読み取れますが、木村建設が断念した結果相殺した、とも読み取れます。この辺が実に微妙なところです。
どちらにしても、熊本ファミリー銀行が資金を引き上げたため月曜日の当座はカラ(決済すべき約束手形の総額より残高不足)だったので不渡りがおきたのです。
常識的に考えれば木村建設には熊本ファミリー銀行から借入債務があり(抵当権や人的保証は取られていたでしょうが)、それが債務超過になっていたのであろうから(債務超過になっていなければ熊本ファミリー銀行は相殺で不渡りを出させることはできない)、この相殺が起きたのです。
もし、相殺権が行使されたとするならば、約定にその旨が書かれていたのでしょうから木村建設の同意は不要なのです。木村社長のニュアンスでは一方的に行使されたようには思えないのです。

◆相殺権とは何か
相殺権とは、本来は金融機関が不渡りや倒産などで債権者(金融機関)に被害が明らかに出ることがわかった段階で、その被害に当たる部分と預金などを相殺することができる権利で、破産申し立てや不渡りが確定した段階でしか行使できないはずです。
この場合に行使されたとするならば、風評による影響でしかないわけですから、どう考えてもやりすぎに見えます。

◆不渡りの責任はどこにあるのか
木村社長の証言には、土日に支店長(熊本ファミリー銀行の。この文章では以下同じ。木村建設の篠原東京支店長は出てきません)と話し合ったとあります。
おそらくは(ここからはわたしの類推です)、土日に(金融機関の支店長が土日に働くなんておおよそありえないことです)熊本ファミリー銀行の支店長たちが木村建設の社長を拘束(弁護士にも会えないように)して、徹底的に洗脳(事業の継続はどうせ難しいのだから支払手形を決済するよりも熊本ファミリー銀行の債務に充てるよう説得)したのだと思えるのです。
そうすることによって、9億円の支払手形(すべてが支払手形であったかどうかはわかりませんが)はすべて不渡りになったのです。
この不渡りで連鎖倒産が起きたかどうかは報道にはないのでわかりませんが、不渡りにされた支払い先は相当にダメージを来たしたことと思います。
木村建設は熊本ファミリー銀行に相殺されたから不渡りが出たので、責任は熊本ファミリー銀行にあると言うでしょう。
熊本ファミリー銀行は木村建設の同意があったから債務に充てたのだから、木村建設に責任があると言うでしょう。
さぁ、どちらが正しいのか…。この結論は当事者が真相を語らなければわかりませんが、その結果を見れば自ずと見えてくるように思います。
結果として、熊本ファミリー銀行の債権は守られたのです(すべてかどうかは不明ですが)。その代わりに手形を受け取っていた営業上の債権者たちはその手形を不渡りにさせられたのです。熊本ファミリー銀行の支店長はきっとたくさんの賞与をもらったと思います。今頃はいい支店に栄転しているでしょう。いや、本社勤務かもしれません。間違いなくひとりほくそ笑んでいるはずです。金融機関の社内評価とはそんなものです。

◆金融機関とは。地方銀行も信用金庫も、都銀も…
こんなものです。
この熊本ファミリー銀行だけが特別だとは思いません。かれらは自らの利益のために働いているのです。金融機関の利益を守ったのですから内部では賞賛されることはあれ、批判されることはないでしょう。
多少勇み足に見えることをしても、それを押し通すために高い顧問料を払って有能な弁護士(地方都市であればその地方での長老的な弁護士を))を顧問として雇っているのです。
金融機関とはそういうものです。
そう思って付き合わなければならない存在なのです。
よく覚えておいてください。

◆破産申し立ては不渡りの翌週
報道では、
「耐震強度偽造問題で、偽造物件のマンションやホテルを設計、施工した木村建設(熊本県八代市)の木村盛好社長が24日、熊本市で会見し、早ければ今月末に熊本地裁に自己破産を申し立てる方針を表明した」
とあります。
この流れを見ると、木村建設が熊本ファミリー銀行に拘束されて相殺に同意した局面では木村建設サイドの弁護士は同席していなかった可能性が相当に高いです。
さらに、木村建設の法人の破産の申し立て代理人は熊本ファミリー銀行の紹介してきた弁護士ではないか、とまで疑りたくなるような流れです。だって破産の申し立てが一週間後ですよ。少なくとも、木村建設サイドの弁護士がついていて、徹底的に対抗したとは思えません。

◆地方都市の弁護士環境
木村建設のケースに従って(また類推も入れての話ですが…)言えば、土日の局面で、熊本ファミリー銀行の支店長は顧問弁護士を連れてきていた可能性は高いのです。その弁護士は熊本の弁護士会の実力者(長老)であった可能性も高いのです。地方都市の金融機関の顧問弁護士はおおよそそういうものです。
そこに木村建設の顧問弁護士がいたとしても、その長老の弁護士に楯をつくことは実際問題としてとても難しいのです。だって、弁護士会に戻れば上下関係(先輩後輩関係、師弟関係)は明らかなのですから。
このようなことがあるから、わたしは会社の破綻に関しては[東京の弁護士]が有効です、と申し上げているのです。地方都市のしがらみの中で、若手の(力のない)弁護士が機能したという話しはほとんど聞いたことがありません。
…わたしが東京のある弁護士にこの話をしたら、弁護士は一瞬絶句してしまいました。
その弁護士は、「もしその場に居たら戦ってくれますか」とのわたしの質問に、ややあってから「もちろん戦います」と答えました。さらにわたしが「地方の弁護士環境ではこういうことはありえるでしょう」との質問にも、苦々しげに「そうですね」と答えていました。

◆わたしがこの局面に直面したら
当事者が、金融機関と一対一になることは、なにがなんでも避けるようアドバイスします。
なぜならば、徹底的に洗脳されてしまうからです。金融機関とはそういうものです。金融機関に助けてもらったという経営者は多いものですが、それはおおよそ向こうの都合がそうなっていたからで、リスクを冒してまで助けてくれる金融機関なんて、利息を取らない金融業者と同じくらいあり得ないのです。
そして、こちら側でも有能な弁護士(依頼人のために最後まで戦ってくれるケンカ弁護士)を同席させます。そうしなければ勝ち目はまったくないからです(もし適当な弁護士がいなければ東京の弁護士に電話で立ち合っていただきます)。その上で、交渉過程は[ICレコーダ]などでしっかりと録音しておきます。
向こうが徹夜などの徹底抗戦に持ち込むならば受けて立ちます。
東京であれば、マスメディアの取材を要請すると思います。TVクルーの前で暴挙をしでかすほど金融機関は愚かではないでしょうから。
最終的なゴールは、月曜日の手形決済です。
もし相殺権を持ち出してきたら、その言質をとります。必ず。それは金融機関の意思で(債務者の同意の外で)行われたということエビデンスをしっかりとっておきます。
そうしたアドバイスこそが[経営危機コンサルタント]の本領だと思っています。

◆余談 - 民主党の代議士、下条みつは…
民主党の下条みつはその証人喚問で、自ら「金融機関で20年働いた、支店長もやった」と豪語していたのに、木村建設の木村社長に「個人財産を隠して破産しようとしたのではないか、そういうことがあるのは、自分も金融機関にいたのでよく知っている」と迫って、木村社長に「個人保証していたので個人財産は全部金融機関に押さえられて、ない」とあしらわれていました。
金融機関の支店長までやった男が、中小零細企業の債務保証関係を知らないなんて、実にびっくりしたものですが、金融機関のエリートコースを歩んでいる者は、財務省にいると自動的に税務署長もやるようなもの(あの、片山さつきも経験者だそうです)で、支店長を経験しても下々のことはわからないようになっているらしいです。
…それにしても、下条みつのHPに勤めていた金融機関名が記されていないのはなぜだろう…。
上場会社や大会社ならともかく、中小零細企業であれば代表取締役の連帯保証(個人保証)のない債務なんておおよそあり得ないのです。もっと言えば、中小零細企業の経営者は個人保証で全財産が押さえられているのが実情なのです。
(2006.1.7.)

◆その後…。
金融機関に倒産させられてしまう、というのは経営者にとってはどうにも我慢のならないことなのです。
自ら「力及ばず」と思って倒産を決意することはいたし方のないことですが、金融機関から「もう諦めなさい」といわれるのですから。無念だと思うのです。
先の内通で、事業継続の可能性が少ないから9億円の支払手形を決済するよりも、熊本ファミリー銀行からの債務に充てるよう、熊本ファミリー銀行の支店長に土日に(弁護士の立会いもなく)説得されて、月曜日の不渡りと倒産を受け入れたのではないか、とわたしの推理を述べました。
そうではなくて[相殺権]を熊本ファミリー銀行が行使したかのような報道もありましたが、そうではないだろうというのがわたしの見解でした。

◆もし、[相殺権]が行使されたのであれば…。
債務者(この場合は木村建設)の了解もなく、当座にある13億円の決済資金を熊本ファミリー銀行が一方的に債務と相殺した、ということであれば、それは、ヒューザーにもシノケンにも総研に対してもメインバンクが行使し得るということになります。
※ この[耐震強度偽造問題]に関して、少なくとも木村建設などを擁護する意思はありません。しかし、木村建設の<不渡り〜倒産>に関しては大いに問題があると思うので、ここに問題提起をしておきたいのです。
経営者はそんな生殺与奪の権利を金融機関に持たれているのでしょうか。わたしは絶対そうではないと思います。
もしそうであれば、その原因となる[事業継続できなくなるような事態]を定義し、約定に記入しなければなりません。が、その定義はおそらく不可能だと思います。
抽象的な文言では経営者は承服できませんし。
よって、この木村建設倒産の原因は相殺権の行使ではなかったと思うのです。
もし熊本ファミリー銀行が相殺権を行使したのであれば、木村建設は熊本ファミリー銀行を訴えるべきです。この相殺権の行使によって手形が決済できなくなり、多くの支払い先に迷惑をかけたが、それら支払い先の権利を上回るどのような根拠を持って相殺権を行使したか、と。

◆木村建設は倒産を受け入れたのか。
上記のように債務者の了解もなく一方的に相殺権を行使したのではなく、木村建設の了解を持って手形の決済よりも債務の返済に充てたのであれば、それはそれで訴える根拠を持つのではないかとも思われます。
すなわち、週末に支店長らに拘束されて有無を言わせずに債務の返済を優先させられたのは、当事者の意思ではなく熊本ファミリー銀行に強要されたからであるから不当である、と。
しかし、そうであれば木村建設も随分な意思決定をしたものだとも思えます。
つまり、あした9億円にものぼる支払い手形の決済が迫っていながら、熊本ファミリー銀行の言うままに債務返済に同意したのですから。報道をつぶさに読むとどうもそのようなのです。
だとしたら、熊本ファミリー銀行のやり方に非難が集まっても不思議はないのです
が、特段非難を浴びているようには見えません。そのような傾向は見えません。
ここに、マスコミに嫌な姿勢が見えるような気がしてなりません。
すなわち、川に落ちた犬は棒で叩け、と。
今や武士の情けとか惻隠の情というのはなくなってしまったのでしょうか。
(2006.5.1.)

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